Stay Small | Kunihiro TAKEDA

#35 静けさの中で方向性を見定める

今日は2026年4月1日。独立して3回目の年度跨ぎの日を迎えた。

今回も昨年度と同様に、軽やかに年度末の境界線を飛び越えることができた。そして、4月に入った途端、より一層静けさが増した気がする。

なぜなら、多くの企業はいろんな意味で大忙しのシガツイッピを迎えており、メールもチャットも一気に静かになるからだ。ちょっとした凪だ。

こうした瞬間に、自分が独立していることを実感させられる。それが嫌というわけでもパッションを感じるということでもない。そういう世界線に来ているのだなと思うわけ。

この静けさというのは、ものごとを深く、しかし軽やかに考える時間に向いている。

個人事業として仕事を続けること

昨日、家族と出かけたときに、本屋にふらっと立ち寄って1冊の本を買った。

季節を生きる起業 競争しないでいい起業」という本。これからスモールビジネスをする人に向けた本だったのだが、何となく親しみを感じて手に取った。

なんというか、自分がやりたい方向性はこうなのではないか、と思わせる本だった。

独立して3回目の確定申告を通り過ぎた今、法人化というキーワードが見え隠れするようなった。収益ベースでいえば法人化のメリットが出始める時期である。

しかし、その一方で、今の個人事業という枠組みの中で不自由だと思うことは正直に言ってない。強いて言えば社会経済的な信用が小さいことくらいだろうか。

本業でみれば、今仕事ができている事実が大きい。ありがたいことに、法人化しないと取引できないといわれたことはない。

それは、取引先が大企業中心であり、フリーランスを雇うということについて、ある程度オペレーションが確立しているからかもしれない。あるいは、大企業から見たとき、私に支払うコストが、別の法人に払うそれよりもリーズナブルに見えるからかもしれない。

そうした経済的な背景というのは、価値があるという前提の上に成り立っている。その意味で、誠実さをもって日々努力していくことが大切だと考えている。

自分の関心を軸にやりたいことをする

しかし、「日々努力していく」というと何やら窮屈に感じられるかもしれないが、実態はそうではなく、実に伸び伸びやっている。なぜなら、解きたい課題を好きな方法で解きながら価値を作っているからだ。

端的に言えば、知りたいことを知り、試したいことを試し、やりたいように工夫する。その起点が顧客課題というだけの話なのだが、それこそが個人事業の秘訣なのかもしれない。

そして、私の場合、解きたい・解くべき課題がクライアントとの協働の場に具体として出現する。そして、その場が複数になったとき、とある業務領域をすっぽり取り囲んだより抽象的な問いが生まれるのである。

具体と抽象。あるいはミクロとマクロ。この両輪があってはじめて、工夫の楽しさが際立ってくる。

たとえば、ピープルアナリティクスの支援の場面。

どうやって目の前の分析プロジェクトで成果を上げるか、あるいは、アドバイスをしているクライアントの分析スキルを引き上げるか、というのは具体的な課題として迫ってくるものだ。

一方、人事分野特有のデータ分析の難しさはどこにあって、どう乗り越えるのかという問いはマクロ的なものだ。プロジェクトをいくつか重ねていくと、こうした問いが浮かび上がってくる。

もちろん、マクロレベルの問いに対する答えはすぐには得ることができない。本やWebを漁っても答えはないし、LLMの回答も漫然としている。

こうした難しい問いと向き合うには、現場観察と支援を行いながら考え続けなければならない。つまり、自分の頭で考え、独自のアーティファクトを作るわけだ。ここに面白さとやりがいを感じている。

組織を作るのか、アイデアを作るのか

つまり、自分はどこまでもアイデアと戯れたいのだろう。

そして、そのアイデアを練る工房は、自分の頭と両手両足、そして一台のパソコンだ。とても箱庭的だと思う。

自分にとってこの方向性は正しいように感じられる。むしろ、独立する前からそうだった気すらする。

プロダクトマネジメントの仕事も、データサイエンティストの仕事にしても、時代的にポジションが明確でなかった時代に取り組んだことで、自分自身で具体と抽象の間を行きしながら学ばなくてはならなかった。しかし、それが楽しかったのだと思う。

しかし、後ろ盾のない小さな事業体である私が、こうした方向性を維持できるものなのだろうか。どこかで困ったことにならないだろうか。

そんなことを紋々と考えていた時に、ビジョナリー・カンパニーで著名なジム・コリンズのインタビュー記事を読んだ。

『ビジョナリー・カンパニー』がベストセラーになったことで、私は周りから「なぜコンサルティング会社や研修会社をつくらないのか」と言われていました。それをしてこなかった自分の真意が、あの日のピーターとの会話によって明らかになったのです。ピーターは私に「あなたがつくりたいのは組織ですか、それともアイデアですか」と問いました。「アイデアをつくりたいです」と答えたら、彼はこう言ったのです。「もしアイデアをつくりたいのなら、組織をつくってはいけません」と。

(ハーバード・ビジネスレビュー 2025年12月号)

アイデアを作りたいのなら組織を作るべきでない――自分が感じていた葛藤を深くついた言葉だった。

私はジム・コリンズのように世界に一撃を加えるコンセプトを作ることはできないかもしれないが、日々の工夫が楽しいという事実はゆるがない。

そして、その工夫がクライアントの支援になり続ける限り、この仕事をしていくのだろう。