#37 心底考えさせられた記事
組織人の目線を忘れぬようにと定期購読しているハーバードビジネスレビュー。Webの記事を探すときくらいしか使っていなかったので、冊子の山が気になりだした。
しかし、この前届いた2026年5月号は冊子で届いたからこそよかった。冒頭のマッキンゼートップのインタビュー記事を読むことができたから。多分、手でパラパラめくらなかったら読まなかった。
AIによってコンサル会社のビジネスモデルが大きな影響を受け始めている今、業界トップのCEOは何を語るのだろう。きっと自分を驚かせてくれるに違いないと思いながらワサワサしながら読んだ。そして、心底驚いたのだ――CEOが記者にやり込められていることに。
まず目に飛び込んできたのは次のようなやり取り。記者がAIについてクライアントへアドバイスをしていることは?と問われると、CEOは茶目っ気たっぷりにこう答えたのだ。
AIについては、いまのところ話していません(笑)。
ここでフリーズしてしまった。何かの冗談かなと。
そして、記者は攻め始める。CEOにAIのことをクライアントに話すべきだと諭す。それに対してCEOは、先ほどのは冗談だったというニュアンスを込めつつも、焦点のぼけた回答を返している。文字通り胃が痛くなってきたのだった。
その後のやり取りも実に興味深いのだが、間接的に蓄積されたアセットを否定しているように見えたし、すべての応答にキレがなく本当にびっくりしたのだ。
社会人になってトカイに出てきたとき、ビジネスのことが1ミリもわからなかった自分。ビジネスの先生はマッキンゼーをはじめとするコンサル系の本だったが、この記事にそれらの本の面影はなかった。まさに時代が変わろうとしている。
この記事が目に留まったのは、AIの台頭によって社会が変わっていく中で、その世界のグランドデザインを彼らがどう描いているかに興味があったからだ。しかし、記事からは一つのヒントも得られなかった。
ここで冷静に考えて気づいたことがある。これは自分自身の弱さを映した鏡なのだと。
独立事業者である自分は、世界規模の事案であっという間に吹き飛んでしまう。それはAIかもしれないし、地政学的リスクかもしれない。あるいは、それらにともった経済の大きな停滞かもしれない。とにかく、組織的な義務がない代わりに、保証もないのである。
それとは逆に、誰の許可を得ることなく、新しいことを試すことができる。案件を引き受けるかどうかも自分の裁量だ。その結果を引き受ける限り自由なのだ。
この不安定さと自由の間に自分がいる。そして、その不安を手っ取り早く解消してほしい気持ちがこの記事を読ませたのだろう。
私はデータサイエンティストとしてAIを道具の一つとして利用し、事業のよきコーチとして日々活用している。それこそ、会社員ではできないスタイルとスピードで利用している。
しかし、その一方で、LLMやAIが既存のビジネスモデルを破壊したというニュースを恐る恐る見ている自分がいる。いつか自分の技術やスキル、ビジネスモデルが無価値になるのではないかと。
例えば、次のような、AIでオペレーション改革をしたという記事は鮮烈に映る。
企業の「テクノロジー観」が競争力を左右する 補助的な「ツール」から、自律的な「役割」への転換 | テクノロジー|DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー
そして、知的産業がAIによって脅かされるというニュースを見ない日はない。こうしたことが澱のように腹の底に溜まってくると、不安が襲ってくるのだ。
しかし、冷静になると全く違う風景が見えてくる。自分がやっていることは、良くも悪くも組織化しにくいことをやっているという自覚がある。
例えば、データ分析の価値を売上の向上や生産性の改善でなく、組織開発につなげるという狙いを持っている。いわば、データドリブン組織開発だが、これを歌っている人を見かけたことがない。
この論点に気づいたのはまだマネジャーの頃で、当時は企画書に「データコミュニケーション」と書いたものの、皆首をかしげていた。当時私は「組織開発」という言葉すら知らず、乏しい語彙で言語化を試みたのだった。もちろん、会社のベクトルに合うはずもなく、言葉ごと消えることになる。
その背景にあるナラティブはこうだ。
ひょんなことでHRのデータ分析のアドバイスをすることになった。アドバイザーなどというポジションは初めてのことで、しかもHR特有の論点に浮遊感を感じながら戸惑い続けていた。しかし、あるとき、プロジェクトメンバーの認識や壁を超える瞬間を目撃することになった。そこにあったのはデータを通じた対話だ。おそらくこの現象に誰も気づいていなかったのだけど、腰が抜けるほど驚いたのを覚えている。
その場面に衝撃を受け、HR関連の本を乱読することになる。そしてたどり着いたのが、エドガー・H・シャインの「プロセス・コンサルテーション」や「対話型組織開発」だった。データサイエンスとは真逆の世界観にまたもや衝撃を受けるとともに、データ分析プロジェクトの新しい姿を見出した。
この着想を実行し、その行く末を最前列で見るために独立したようなものだ。しかし、どこにも勝算はなかった。ただ、「できたらいいな」という予感があっただけだ。だから、前職時代にはそれを表に出さず、組織的にスケールするような絵を描いていたのだ。
しかし、独りになった今、スケールを気にする必要はない。それは、ある意味で、LLMとは真逆の方向性を目指していることになる。この逆張りともいえる戦略がどこまで通用するかわからないが、走れるうちは走ってみたいと考えている。
こんなことを考えながら改めて件のインタビュー記事を読みなおした。そうすると、1回目に読んだときには目に留まらなかった最後のパートが目に飛び込んできた。
そこでは、CEOがリーダーにとって大切なことを3つ述べていた。謙虚さ、コラボレーション、スピードが大切だという。これは確かにそうだ。スモールな自分にこそ必要な戦略だろう。当たり前だが十分にできているとはいいがたい。やはり、前向きな眼を持っている限り、マッキンゼーはヒントを与えてくれるのだ。
謙虚さ、コラボレーション、スピード――この言葉を胸に、前向きに歩いて行こう。