#29 ここからの話
早朝に目が覚め、ぼんやりした頭のままでスマホをつかみ、適当にSNSを見ていた。すると何となく自分と似たような経歴の人の投稿が目に入ってきた。はじめはこんな人もいるんだなとウトウトと眺めていたのだけど、シャープな投稿に共感しかかったところで、頭の中に警告音が鳴り響いた。
自分よりも立派な経歴に見えるし、フォロワーも多い。自信たっぷりの発言で論旨も明快。それに比べれば自分の投稿は緩いしインパクトに欠ける。しかも、事業化を目指しているという。どう考えても競合になる人じゃないか。
数分も経たないうちにベッドから起き出して顔を洗った。そして、静かなリビングでひとり、どうすべきかと考えはじめた。
まずは現状を整理してみることに。
今年度の売上は安定しており、前職の収入に達する勢いで安堵している。しかし、やりたいことが上手く進んでいるかというとそうでもない。件の競合とにらみ合う業務領域のことだ。
ここが分岐点――そう直観した。
狙った事業にフォーカスして全力で加速させるのか、それとも、ポートフォリオを広げるのか。
スモールビジネスの秘訣はニッチと逆張りだと考えている。しかし、その一方で、私のような個人事業はいつの時代にもある普遍的なビジネスが向いているともいえる。このあたりの言説は飽きるほど目にしてきた。
ニッチとは満たされていない小さな、しかし重要な課題。これまで見えていなかったペインポイントをピンポイントでついた事業である。
一方、逆張りというのは二つあり、世の中の大きなトレンドから外れた動きであるか、もしくは他社と違う課題解決手段を取るということ。
普遍的なビジネスというのは、常に求められる仕事や業務領域のことだ。BtoCでいうとクリーニングサービスや、ヘアサロンのようなもの。中小企業向けのコンサルでいえば資金調達支援やIT企画支援、売上拡大、事業継承など。また、個人向けコンテンツならHARM。
ニッチと逆張りと普遍性。この三つを司る天秤の制御は難しい。
結局のところ、腹をくくってどれかにベットしなければならない。
私が注力しているのはピープルアナリティクスの内製化支援。
ニーズとしてはおそらくまだニッチであり、伴走型のアプローチは大企業にはできないやり方。そして、生成AI推しやHR系SaaSから距離をとっている。ハイコンセプトでなくハイタッチな方向性で、5年前の自分が見たら全く思いもよらない展開に見えるだろう。当時はプロダクト志向だったから。
さて、課題はニッチであり、しかも解決アプローチも大企業が参入しないような方法をとっている。スモールビジネスとしてよさそうだ。
しかし大きな問題が一つある。それは市場として本当に需要があるのだろうかという点。ブルーオーシャンに見えたものが実は蜃気楼だったということは大いにありえるのである。
仮にブルーオーシャンだったとして、自分よりも上手くやれる人やブルーをレッドに染める何かが出てきたら困ったことになってしまう。ニッチはニッチであるがゆえに、的を外したら終わりなのである。クリーニング屋や地域向けの資金調達支援コンサルのようにエリアを転じるわけにはいかないのだから。
ポートフォリオを広げるということは、こうしたリスクを軽減することを意味する。個人事業で「事業の」ポートフォリオも何もないだろうと思うかもしれないが、周囲を見ていればそうでないことに気づく。巧みな商売人は多品種の種まきを欠かさない。
今回鳴った警告音の正体は何か。
ライバルの出現したから?それとも蜃気楼を見たから?――いずれも違う。
心のどこかでポートフォリオを広げることを考えていたことに気づいたからだ。ここ1か月ほどは腕まくりしてピープルアナリティクスのコンテンツ作成にいそしんでいたものの、どこかで不安を感じていたのだった。
- もし、主要事業が立ち上がらなかったらどうするか。
- 手持ちの資格を活かしてマーケットを広げることはできるだろうか。
- Webアクセスが伸びないのは求められてないからだろうか。
- 自分のサービスが生成AIにとってかわられる可能性はあるだろうか。
というようなことを頭の奥で考えていた。
こうした心配は事業につきものであるが、大事な視点が抜けていることに気づいた。それは顧客課題の視点である。つまりビジネスの肝。
いま考えるべきは「どう事業を伸ばすのか」でなく、「自分のサービスは顧客課題を解決するベストな方法なのか」と問うべきだったのだ。
今自分がやるべきことは、顧客課題を解決し価値を届けることに全力を尽くすことだ。ひとりビジネスを営む私は、それ以外にやるべきことはないのだ。
実プロジェクトで力を出し切ることはもちろん、それ以外の活動もすべてそうすべきだ。Webで記事を書くならピープルアナリティクスの悩みを鮮やかに解消する記事でなくてはならないし、情報を仕入れるときも同じ。
自分としてはプロジェクトで誠実に仕事することを心掛け、期待以上のアウトプットを出そうと努力してきた。また、商談にならない短時間の相談事であっても、その中で価値を出すことに注力してきた。
しかし、「それだけ」でよかったのだろうか。もっともっとやるべきことがあるのではないか――そう思ったのである。
ここから90日。考えられることすべてをトライし、学びながら価値を届けていく。それが有償の仕事だろうがプロモーションであろうが関係ない。
ただし、それはニッチな課題を抱えているすべての人、つまり今と未来のクライアントに向けたものに限定すべきなのだ。それを忘れないようにしたい。
このブログで書いている内容は基本的に振り返りだった。未来のことについて書いたのははじめてだ。90日後に読み返したい。