#23 独立一年目の振り返り
独立して1年。どんな一年で、ビジネスとしてどうだったのかを振り返りつつ、今後の展望を考えてみてたい。
正式に会社から独立したのは2023年12月21日のことで、この日から公式にはどの組織にも所属しない自営業な人となった。大学を出てから約20年も会社員をやっていたわけだが、いざ会社員でなくなると、不思議な感覚になったのを覚えている。
どのようなビジネスをするか、クライアントにどのような提案をするか、値付けはいくらにするかなど、すべてを自分できめなくてはならい。これらについて誰かの許可をとらなくてよい爽快さがある一方で、何が正解か分からない中で手探り以上の混沌さを感じた一年だった。
会社員時代にも副業で商売を始めていたのだが、副業と本業では何か違うような気もしていた。この点ひとつとっても、独立を決断したことには大きな意味があったと思う。
会社の看板がなくなることについて
「独立すると会社の看板を使えなくなり、途端に無力感を感じる」という話がいたるところで言及されていて、私はこの点を大きなリスクと考えていた。
そこで、独立する前からピン芸人のような動き方をし、なるべく自分の頭で考える癖をつけるようにしていた。いつか「個」で戦うときに必要な武器だと思っていたからだ。このあたりの考え方は、トム・ピーターズの本によるところが大きいと思う。
それでも、知らず知らずのうちに、前職の富士通という会社の大きさに守られていた部分が大いにあるはずだし、営業、事業、管理のような各機能が合理的に分割された現代的な組織での経験しかない中で、果たして自分で受注できるのか未知数だった。
この点については想像通りだったことと、そうでなかったことがあった。
まず「元富士通」という経歴は、クライアントから見たときに決してネガティブではないことが意外だった。少なくとも正体不明ではない、という認識を持たれる場合が多かった。
独立したとき、前職の会社名をなるべく出さない方がよいのかなと思っていた。しかし、クライアントや仲介者の方が私を誰かに紹介するときに、「富士通でデータサイエンティストをされていた方です」と紹介いただく場面がたびたびあり、自分も隠さないようになった。
こうした状態がどのくらい続くのかはわからないが、今の自分(=フリーランスなコンサル)という肩書よりは信用があるということだろう。この点については前職に感謝しなくてはならない。その一方で、いつか「○○といえばあなた」というレベルで認知される努力をしなくてはと思う。
一方、営業機能も含めて自分が賄う必要があるという点については、課題が残っている。これは次節にて。
受注について
独立コンサルタント業の最大の課題は受注に関することだろう。端的にいうと、商売をとれるかどうか。この一点につきる。
まずはこの一年の売上を総括すると、目標値の8割3分という状況だった。まずまずというところだろうか。
事業を始める前に損益をシミュレーションしたことがあり、その時にベストケース、ベターケース、ワーストケースの3つの数字を作った。今回の売上はベストケースに対して8割3分、ベターケースに対しては大きく超えているのでひとまずは安心したところ。しかし、実態の数字をよく見てみると上下が大きく、安定してビジネスを続けるには工夫が必要だと感じている。
また、クライアントとの関係が直接取引であるか、それともと別の取引先企業を経由しているかを仕分けてみたところ、直接取引はまだ3割程度という状況だった。ここをいかに増やしていくかがビジネス上の課題だと考えている。
自分はもともとエンジニアでおとなしいキャラクターなので、正直にいってグイグイとした売り込みが得意ではない。SNSもそうだが基本的にプル型のビジネス展開となっている。その中で多種多様な仕事に携われたというのはありがたい話だ。
この自分のキャラクターを認知したうえで、受注の間口を広げていくための作戦を考えて試していきたい。
仕事の幅について
この一年で携わった仕事をざっくりと上げてみると、次のようになった。分析者としての活動からコンサルティング、研修講師、執筆と活動の幅が広がってきた。
- 人事データ分析のアナリストとしての稼働
- 人事データ分析の技術アドバイス/コンサルティング
- 中小企業のDXの支援(プロジェクトベース)
- DX研修講師
- 執筆業
分野別に仕事を大別すると、ピープルアナリティクス(人事データ分析)に関する案件とDXに関する案件に分かれるが、その比率はほぼ1対1だった。
一方、直接取引ができてるかどうかの割合でみると、ピープルアナリティクスが4割5分程度なのに対して、DXは1割5分と低い。これは、DX研修講師の案件の大部分が大手研修会社経由の案件だからだ。
2024年現在、DX人材の育成で教育市場は盛り上がっていて、この市場に参入するには個人よりも研修会社経由の方が有利だろう。来年度もいくつかお仕事をいただけることになっており、本当にありがたいと思っている。
一方、直接取引の案件を増やしていく上では、ピープルアナリティクスが鍵になりそうだ。ここは大々的に何か仕掛けるというよりも、誠実さを積み上げてていくことが大切だと思う。
人とのつながりについて
独立して会社員との違いを最も感じたのは人とのつながりかもしれない。とにかく、会社員時代では思いもつかないような人たちと知り合い、言葉を交わすことができた。
長年勤めた会社から独立するというと、過去に培った人脈をフル活用してビジネスを起こすというイメージを持つ人もいるかもしれない。
しかし、私の場合は、エンジニアリング部門に在籍していて顧客との接点は少なく、また在籍していた組織が大きな曲がり角にあって退職者への業務委託を出せる雰囲気がないことを理解していたので、あまり期待をしていなかった。
とはいえ、私の独立するというメールを見て声をかけてくださった方が何人かいらっしゃり、仕事につながったこともあった。特に独立直後の案件はこうした過去の人脈からのお話が中心で、今も続いている案件もある。ありがたい話である。
一方、noteやブログをご覧になって声をかけてくださった方もいた。特に、noteでピープルアナリティクスについてあれこれ書いていたことが大きく、登壇の機会をいただいたり、業界団体に所属するきっかけになったりと大きなつながりを得ることとなった。
そうこうしている内に、様々な方と名刺交換させていただくようになった。自分が何度も読んだ本の著者から、様々な企業の人事部の方、大学で教鞭をとられている先生、凄腕のデータサイエンティストなど多くの方とお話することができた。今の状況を独立当初は想像できていなかった。
こうして人とのつながりが広がるにつれて、仕事の幅が広がるだけでなく、自分自身の視野が広がったことが大きい。また、こうした場面では商売のイメージをいったん頭から外して、純粋に目の前の方との会話を楽しむようにしている。私の場合、会社の看板がない自営業者であるからこそ、フラットに会話できる気がしている。
「凪」を意識すること
ひとりで商売をしている中で、手持ちの案件がなくなり、ピタッと動きが止まったかのように感じることが何度かあった。一言でいうと凪だ。
会社員をしている限り、完全な凪には遭遇しない。仮に売上がしばらく見込めないような状況だったとしても、組織としての何かしらの定常業務が待っているからだ。
週次のミーティング、朝会、勤怠の入力、組織内のイベント、勉強会、あるいは部内の同僚との雑談などいくらでもあげることができよう。つまり、何かの組織に属している限りにおいて、まったくやることがないという状況にはめったに遭遇しないのである。
しかし、独立事業者として仕事をしていると、凪がくるときがある。そのときにどのような行動ができるかがある意味勝負所なのかもしれない。
誤解を恐れずに言うと、独立事業者であっても凪でやれることは無数にある。顧客開拓、プロモーション、商品開発、Webページの刷新、SNS発信、経理関連の整理、事務所移転など、やろうと思えばいくらでも仕事を作ることができる。問題は、これらのどれがビジネスにつながるのかがよく分からないということだ。
会社員であれば、会社が用意したイベントや定例作業は「やるべき仕事」の一つであって、それが売上に繋がらなくても給与が減るわけではない。しかし、独立事業者は受注できなくては売上を上げることができない。だからこそ、凪のときに何をすればよいか迷う。
こんなことを考えながらWebをウロウロしていたら、次ような記事を見つけた。
もういちど帆船の森へ 【第17話】 凪の日には帆を畳んで / 田中稔彦 | ORDINARY(オーディナリー)
風が吹かなくて全く動かない船に乗っていると、どうしても気持ちが焦ってくるのを抑えられません。けれど、船を動かすためにできることは、何もないのです。誰が悪いわけでもありませんが、風が吹かないことにはどうしようもありません。けれど、動かない船の上で何をするのか、漂うだけの時間をどう使うのか、それは考えることができます。
日々の暮らしの中でも「風が吹いてこない」時は必ずやってきます。
向かい風に逆らうのなら、何を頑張ればいいのかははっきりします。
けれど、凪は違います。
何もできない中で、その先を見通して何をするのかを選択する。
最後の一文「何もできない中で、その先を見通して何をするのかを選択する」が自営業者のそれにぴったりと合う言葉だと思った。
何が正解か分からない。受注のために奔走しても空回り。そんな時でも、自分の行動を一つ一つ選択していかなければならない。この難しさと自由さが独立事業者の特徴だと思う。
可能性を感じたこと
確たる何かがあるわけではないが、「これは可能性を感じる」と思ったことを整理しておきたい。
一つ目はピープルアナリティクスの技術支援。内製化を支援することを目標に掲げてきたが、これは間違いではなかったと確信している。まだまだ道は整備されていないものの、やれることが多いのではないかと思っている。
二つ目は書くこと。noteから始まり、事務所のブログやLinkedInでそこそこの文章を書いて投稿してきたが、そこから人や仕事につながったことがあった。書くこと自体にも慣れてきたし、自分の武器の一つにしていきたいと思う。
三つ目は人に教えることの貴重さ。人に何かを伝えようとするときにこそ自分の創造性が試されるように思う。こうした場面があるとないのでは自分自身の学習量が変わってくる。これは上下関係を持った組織の中で「指導する」のとは全く異なるもので、独立した立場であるからこそ誠実さと力量が試されるものだ。刺激的で面白く、勉強したくなることがわいてくるのが嬉しい。
四つ目は自分のキャラクターを伝えること。自分は自分のことを上手く理解しにくいものらしい。裏を返すと、相手にとっての印象が自分のことを端的に表していることもある。個人で商売をしていくなら、自分自身のキャラクターに合うクライアントとお付き合いしていく必要があるし、改善すべきところはしっかり改善していかなくてはならない。その前提として、自分自身のキャラクターをいかに伝えていくかが鍵になるのではと思っている。
今後の展望
以上でこの一年間の総括がおわった。では、今後はどうしていくのだろうか。
まず思い浮かぶのは、ピープルアナリティクスの仕事を増やしていくことだと考えている。特に個人的なポジションとして、ピープルアナリティクスの専門家という軸をもう少し押し出していきたい。
一方、DXビジネスは当面は人材育成に注力して経験を重ねていきたいと思う。やりがいもあるし、学ぶことも多くある。SEとデータサイエンティストの両方の経験を活かせるのも大きい。
これらに加えて、何らかの形でストック型のコンテンツビジネスも立ち上げたい。私の強みはリアルな対話にあるように感じているが、その一方で、コンテンツとしてまとまったノウハウを残しておきたいという思いもでてきた。なぜなら、クライアントから「良い参考書はないですか?」とたずねられるとき、ずばりこれだけ読めばよいですと言えないことが増えてきたからだ。
以上の3つをざっくりとした方向性としつつ、健康管理にもより一層気を使っていきたいと思う。今年は大きく体調を崩すことはなかったが、この年末にインフルエンザに罹ってしまった。年末ということもあり仕事へのインパクトは最小限で済んだものの、独立事業者として改めてそのリスクを痛感した。
ということで、皆さまもよいお年をお迎えください。