Stay Small | Kunihiro TAKEDA

#27 新しい舞台でどう踊るのか

今日は2025年4月30日。4月末だ。

独立して2回目の4月はあわただしく過ぎていった。大学での非常勤講師の仕事が始まったのが大きく、それ以外にも新しいタイプの活動をいくつかこなしていた。

学部生向けに実務的なデータ分析のノウハウを伝えるというのは初めての試みで、自分自身にとっても学ぶ機会になっている。理系でなく文系の学生向けというのが興味深いところだが、それこそがピープルアナリティクスの主戦場ともいえる。ここで試行錯誤したことは、必ず人事の方にも還元できると考えている。


一方、会社員だったら気軽に手を出さなかっただろう、と思われる活動をいくつかやってみた。そのひとつが著名なコンサルタントとのYouTubeでの対談だ。

お声がけいただいたのは、コンサル出身でデータ系ビジネスを数年前に立ち上げあっという間に市場にくさびを打った方で、データ分析界隈では知られた人物だ。著書も複数出版されていて、会社員時代にも部下や周囲の人に薦めたものだったが、カメラの前でその著者と横並びで座るなんて想像していなかった。

何しろ慣れないことなので撮影日が近づくにつれて非常に緊張していたが、当日は素直にピープルアナリティクスや独立起業についてお話することができた。終わってみると一瞬の出来事に感じるほど楽しい時間となった。貴重な機会をいただいたことに、改めて御礼申し上げます。

さて、この活動のポイントだが、会社員だったら実現しにくい話でもあった。まず第一に繋がりを持つことはほぼできなかっただろうという点。独立してからビジネス上のお付き合いのあった取引先の紹介で、つながることができたからだ。

イベントを通じて名刺交換をさせていただいたのだが、イベント後すぐにSNS経由でメッセージをいただいてびっくりしたことを覚えている。その後、当方のnoteをご覧いただいて興味を持っていただき、対談につながったというわけだ。

対談企画のお話をいただいたときは二度目のびっくりで、私のような地味な個人でも大丈夫なのかな…と不安に思ったのが正直なところだった。ただ、せっかくの機会なのだからやるべきだと思い、やってみることにしたのである。派手で皆さんを唸らせるようなコメントはできないかもしれないけど、それも含んて自分自身を出そうと思った。40代半ばとは思えないピュアさである。


さて、この話には自分にとって一つ重要なエピソードが挟まれている。

イベントで名刺交換をしてから対談の企画をいただくまでの間に、一度お仕事のご相談をいただいている。その仕事は大変魅力的だったし、ちょうど手持ちの案件がなくなって困っていたときだったので本当にありがたかった。しかし、残念ながら自分のスキルセットでは対応できない案件で大いに迷った。

多分、気合を入れて勉強しなおせばできるかもしれない。少なくとも研究所時代には似たようなことをやったこともある。しかし、ビジネスとして最前線で手を動かしていない領域だったので、最高のパフォーマンスを出せるかというと疑問だった。

「できます!」と言って手をあげて学びながら取り組むか、それとも素直に自分では対応が難しいとお伝えするべきか。せっかく期待していただいたのだからお応えすべきではないか――。

タイムラインを眺めつつ、こんなことをじっと考えること15分。

自分の実力では対応が難しいことを丁寧にお伝えし、お断りすることになった。申し訳ない気持ちでいっぱいになったのだが、引き受けることでおそらくご迷惑をかけることになるだろうと思ってのことだった。幸い快く受け止めてくださり、その後は専門の話をいくつかやり取りさせていただいて一旦会話は終了したのだった。


このやり取りの後いろんなことが頭を巡った。特に考えたのはビジネスチャンスの捉え方で、自分がその仕事ができなくとも経営的な視座に立てば答えは違っただろうということだ。端的には期待に応えるように自分を変えるか、人の手を借りるかという話だ。

個人事業としての独立であっても組織化することは可能だし、本格的に組織化したいのなら法人化すればよい。そもそも会社員時代の最後の方はマネジメントをしていたのだからやれるはずだし、スケールしたいならそうすべきだろう。

しかし、今は組織化とは全く異なる戦略で動いている。「個」としてのポジションを確立して、自分の経験や知識とネットワークを利用した活動を目指している。それは、ある意味起業のトレンドからすると逆張りなのだが、自分のある着想を試すためにやっている。

とはいえ、この作戦がワークするかどうかは誰にもわからない。もし失敗すれば会社員に戻ることになるだろうが、その程度だとも気楽に考えている。そう思えるのは、時間を自分なる人的資本に投資するという、いつもの戦略にしたがっているからかもしれない。

ともかく不安定なポジションでもあるので仕事を選ぶ余裕はないはずなのだが、できないことにYesということは技術者として誠実でないと思ったのである。この話は以前にも書いたことがある。そこで、このお話についても素直に誠実にという判断基準に沿って回答させていただいた。

今回のYouTubeのお話は、このときの対応が周りに回ってつながったものだ。つくづくビジネスのご縁は不思議なものだなと感じた次第である。


非常勤講師の仕事も、YouTubeでの対談も、また一期一会の中で仕事をお断りすることもすべて「新しい場面」だ。

会社では基本的に個性の発揮よりも代替可能な仕組みを作ることが求められる。組織化というのは元来そういうものだ。もちろん、組織においても各人が専門性や創造性を発揮することが大切だが、ゴーイング・コンサーンを目指す法人の尺度から見れば、個人の個性もまた組織の一部として捉えられるだろう。

そう考えると、会社員生活を始めたころは新しい場面の連続で驚きと興味の混じる刺激的な日々を過ごすことになるが、そのうち標準化の波にのまれてしまう可能性がある。つまり、個人にとっての「新しい場面」はどんどん減っていくのである。

仮に新規事業など大きな変化点に直面したとしても、組織のビジョンや文化から逸脱することはやりにくい。結果的に舞台装置としての場面は新しくとも、その上での踊り方には作法が求められるのだ。

一方、個人事業としての活動は後ろ盾がない代わりに、作法も求められない。正確には、どの舞台に立ち、どのような踊り方をして、どういったフィードバックを得るかは自由なのだ。そこに標準化なるものは存在しない。

それこそが個人事業、ひいては組織化をしていない個としてのビジネス活動の醍醐味ではないかと思う。